逢島弁当

 お昼時、瑞穂基地のある一角にてそれは販売されているという。
 
 格納庫から食堂へ向かう途中の曲がり角。正午を半ばほど過ぎる辺りの頃合いに、その無塵販売所は人知れず現れる。
 看板には「逢島弁当 300円」、両脇を固める横断幕には「ハズレもあるよ!」「好評、ハズレ率当社比3倍!」
 そして、壁には「はんばいふきょかしょう」とミミズの這ったような字で書かれた掲示物。
 
 明らかに、あからさまに不審物品であるそれではあるが、世の中には物好きな者が少なくはないようで、毎日5個から10固程並ぶそれは、並べられてから十数分も経てば完売となるらしい。
 
 それを食べた事の有る者に、評価を聞いたところ、様々な反応を得る事ができた。
 
 曰く「ご飯の代わりにタピオカを入れるなんて常識を疑う」
 曰く「アレって、塩と砂糖が逆なくらいじゃハズレじゃ無いらしいよ?」
 曰く「とにかく中身に使われて居るものに比べ値段が安い。味を語るのは禁句」
 曰く「今のとこ皆勤の私から言わせて貰うと、ネタモノのハズレが3割、味的なハズレが6割、実は1割程はまともなモノが入っていたりする事が多い。」
 曰く「この前、すっげーハズレを引いたぜ? 飲み物にオイル缶とか付いてやがるの! 流石に飲めねーから意中の完機ちゃんにプレゼントしちゃったよ。」
 曰く「何アレ、栄養価計算が全くされていないし……、そもそも、廃棄物混ざっていないかしら? アレ……」
 曰く「……アレはスゴかったよ。見た目が高級五つ星レストランの料理。それもそのはず、弁当にその写真が貼られているの……、で、中に脱穀すらされていない稲穂と生きた蛙が入ってた……」
 曰く「あっしはいつもハズレばっか引いている気がするっす。この前なんて白米の代わりに蟻の卵なんて入っていたんすよ! 信じられます? それに……蓋底にニィート専用って毎回の如く書かれているっす!」
 
 評価を総合するに、一般人にはお勧めできない代物である事は伺える。
 
 しかし、最近では何故か、これを食べた日の出撃では戦死することがないと言う噂が一部の者の間で広まって居るらしいが、「それってただ単に、腹壊して出撃できなかったとかが理由何じゃね?」等という意見もあり、その真相は未だ明らかになっていない。
 
 また、過去に何人か張り込み調査を行なった者が居るらしいが、いずれの人物も販売者の特定には失敗しているらしい。
 その原因については、どういう事かAクラスの機密指定として扱われているらしく、言及については規制されていた為、当記事でも追加調査は断念せざるを得ない状況となってしまった。
 
 
 
 
 
 
「楓。楓。楓。いつもの、よこせ!」
「あ、おはよー逢島さん。今日失敗した奴はこれだけしか無いけど……平気?」
「それで十分。ズクも喜ぶ。」
「そっか、良かった♪」
「良かった」
「そう言えばそれって、いつもどこに捨てに行っているの?」
「企業秘密。……秘密?」
「秘密?」
「…………。……ドガガガガガガガガガガ」
「きゃ!? きゃ!? き、聞かないから、逢島さんごめんね。」
「のーぷろぶれむ?」
「う、うん。それじゃあ、またよろしくね〜」
「楓、またな。」
 
「今日のはきっと桜花喜ぶ。工場長もそう言ってた。…………よし。」