X-13機関(1)

 最強の兵士を創りあげる為の非人道的な研究。
 その研究自体は別段と珍しいものでもなく、古くは天使核技術が発見される以前から続けられているものだ。
 天使核技術の発見以降は、強力で且つ即戦力となるそれに比べ、その研究はさらなる闇に埋もれる形となったが、その研究自体は天使核の使用用途と連携させることが可能であった為、廃れるという事は無かった。
 この辺りについては、天使核の主要使用用途の一つ、「機械化兵は、その全てが志願兵によって構成されている」という点から、薄々気づいている者も存在したかもしれない。
 一般の志願兵、生命の泉教会出身の志願兵、中には不当な状況で志願兵とさせられた者がゼロであったとは言えないだろうが、それらに加え研究の成果物による水増し*1が行われていた事に気づく者は、どれほど居たのだろうか。
 
 何はともあれ、40年にも渡った戦役は、それらの研究施設の大半を名実共にこの世から消滅*2させるには充分な展開を見せることとなった。
 彼は、そんな中、ヤシマ内に移設された研究機関出身の個体の一つである。
 
 研究所での研究内容、そしてその目的とするものは至って簡単だ。
 「最強の兵士の作成、及びその量産」
 方向性だけで見れば、完全機械化兵の量産というのと代わりは無い。ただ、その製造過程における担当となるパートが違うだけと言えるだろう。
 完全機械化兵は、優秀な兵士、もしくは優秀な素体の脳をクローニングしたものをベースに製造される。
 それでは、その「優秀な兵士」「優秀な素体」と言う者は、何処から調達されているのであろうか?
 まず「優秀な素体」に付いては、拉致などの非合法な手段で調達される事は少なくは無い。
 次に、「優秀な兵士」についてだが、これは生身の「優秀な兵士」*3を素体として使用する場合*4も無いではないが、この研究所から出身の個体が使用されるケースも少なくは無い。
 一番の理由は、V機関、延いては天使核の効率特性。女性型において最大の効率*5を発揮するという特性からは女性素体が好ましいのだが、軍という環境では近年では女性の比率も増えてきてはいるが、実戦部隊の構成員の比率で見れば男性の比率が圧倒的なものとなる。よって、条件に適合する素体を探し出すのは容易では無く、入手の機会もかなり限られたモノとなっている。
 そこで、例の研究機関や、それに類する機関からの素体提供が、重要な役割を果たす。
 
 例の研究機関の役割を端的に表すとすると、言わば兵士工場である。
 そこで生み出された兵士の大半は、出荷可能レベルに調整されるまでの段階でドロップアウト*6する事となり、残りの優秀な個体のうち女性個体は完全機械化兵の素体に、男性個体は機械化兵の素体に回される事となる。
 ただ、その中でもさらに優秀な個体*7については、機械化及び完全機械化処置は行なわれず*8に各種機関*9にエージェントとして出荷され、実戦経験を積み重ねながら「最強の兵士」を作成する為の次世代個体の親の候補としてそれぞれを高めていく事となる。
 また、最近では黒の天使核の移植手術に技術が当研究機関のレベルで確立しつつある為*10ギアドライバー、及びナビゲーターとしてのエージェントの出荷も極僅かながら行われている。
 
 今回記した内容は、まだその研究機関の概要にしか過ぎない。
 その、狂気とも言える研究内容、詳細、方式については、また別の機会に語るとする。

*1:ただ、現状の完全機械化兵に比べ量産性には優れない為、純粋な研究成果によるものは全体の1割にも満ちていないと思われるが、真相は定かではない

*2:各研究所は基本的には表へ出す事の出来ない機関である為、交戦危険エリアに入るよりも前に研究所自体の廃棄処理が行なわれる。

*3:機械化手術を受けている個体では、体内のエーテル汚染の関係上クローニングの為の素体としては適さない

*4:主に死亡体の引取りなども含まれる

*5:男性の素体を用いてクローン時に脳を女性化させることは不可能ではないが、工程の増加、調整期間の増加、稼動後の不安定要素の要員、製造コストの増加にもつながる為あまり好ましくない。また、基本的には形状による特性が高いと今までの統計(理論的には未だ持って原因は不明)として出ているため、男性脳として女性型の機体に搭載している個体も少なくは無いが、統計的には女性脳を使用したタイプの個体の方が若干ながら高い成績を収めている

*6:事故による死亡の他、能力に優れない廃棄個体は、他の研究への実験体としての提供や、訓練個体の標的などとして有効利用した後に処理される

*7:単に能力的に優れているという意味では無く、その研究機関が求めている方向性への調整が完了した個体

*8:それらの処置を行なった個体は次世代個体の親としての遺伝的価値が著しく劣化する為

*9:諜報機関、実験部隊、特殊部隊など

*10:なお、黒の天使核の移植に関する技術については、ヴリルソサエティ経由で統一帝国、及びヤシマ帝国の双方に対して別々に提供されているようであるが、ヴリルから提供される以前に当機関では独自に研究を行なっており、それをベースとして統一帝国側に提供された情報と、ヤシマ帝国側にもたらされた情報のうち調達に成功した部分の情報を参考に改良された方式を使用している。